朱い壁

『朱い壁』にお住まいのクライアントが、執筆してくださいました。
私達もお会いするたびに元気をいただいてる、70歳代とは思えない前向きで素敵な女性です。
数年前の春、「朱い壁」のクライアントが他界なさいました。
心よりご冥福をお祈り致します。

01  暮らしの中で思うこと    「2002年9月…」

2002.09
私は75歳の女性である。
いわゆる老女と云われる。
しかし私は老 ( オイ ) の文字が嫌いである。
老女 · 老婆という文字があるのに、老男 · 老爺という文字が何故無いのであろう不思議である。
私は単に75年生きてきただけなのに ·  ·  · 
気力体力の衰えは認めるが、それは年齢にかかわらず若い人たちの中にもみられる。
何歳になっても生き方によって老 ( オイ ) を近づけない様、日々、己に云い聞かせている。
山嵜さん · 堤さんとの出会いは、私が70歳、私の住居のリフォームをお願いしたときである。
私が一番気にしたのは、「自分は専門家だからまかしていればちゃんと仕上げる。」という態度をとられるのではないかということであった。
私は今回で3回マンションを替えている。
その便利さ、不便さを体験していると同時に10年先の自分も見えているとはいえ、すべてバリアフリーで安全性のみ優先の明るさがない部屋も嫌であり又、過去の家具をすべて捨ててしまうのも淋しい。
彼らは、私の話をゆっくりと何回も聞いてくれた。
私はすっかり彼らを信頼し、今では息子 · 娘という感覚である。
そうして、朱色の和紙を貼った曲線の廊下のある我が家が出来上がった。
最初和紙の見本を見せられたときはびっくりしたが、今は我が家の個性となり又、私を元気づける色でもある。
何回か取材に訪れた若い女性たちにも、「こんな所に住みたい。」と好評である。
この、私だけの空間をより素敵に作ってゆくことが、彼らに対する私の感謝だと思っている。
四季折々の変化を、我が家に取り入れていきたい。
陶芸を趣味にしている友人が、昨年作品展に出品した花器を戴いた。
力強いタッチの作品である。
今年は同材による飾り皿をお願いした。
出来上がりが楽しみである。
街を歩きながらも陶器店等に入りたくなる。
高価でなくさりげなくとけ込んでいる、そんな物が好きである。
秋も近かづいて来た。
さあ、又少しずつ我が家を替えていきたい。
そうして、事務所の皆さんを驚かせ、又喜んでもらいたい。
それが残り少なくなった我が人生の楽しみでもあり、生き甲斐 ( ? ) でもある。
人生は最晩年が佳き日々であれば、その人は幸福な人生を送ったと云われる。
多くは望まないが、自分のためにすばらしい空間を与ええられたことは、本当に幸福だと日々感謝しつつ過ごす毎日である。
朱い壁
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