S-HOUSE

『S-HOUSE』にお住まいのクライアントが、執筆してくださいました。
共働きで子育て真っ最中の奥様の文章です。
残念ながら建物の詳しい紹介は掲載できませんが、木造三階建ての住宅です。

01 家を建てるプロセス

2003.03.10
家を建てようと思ったのは、 そうするのが一番、理にかなっていると思ったから。

家族時間 量か?質か?

ひとつに家族時間の量か?質か?
という問題があって、
企業勤めのサラリーマン世帯が転職以外の方法で
働き手である夫も一緒の家族時間の量を増やそうとすると
通勤に便利な都心に住む事になるし、量は足りている。
これ以上家族の顔を見える時間は増やさなくていい
家族が楽しめる空間やしかけを居住空間に求めようとすると郊外になる。
土地神話は崩れたというものの、
土地は同じ条件のところはひとつとしてない、どれも1点ものだし、
居住のためならどんなに資産価値の高い土地でも贅沢品という扱いにはならないし、
ローン金利も低く、団体生命保険に加入でき、ローン減税も受けられ、
時代によって評価が変わる事はあっても、使っても減らない、かさばらない、
ゴミにならないといった 資産としてのメリットがある上に、
私達にとって、都心に住むというのは、 家族時間が増えるという事になり、
土地は値上がり値下がりなどのリスクもあるが、
使っても減る事が無いのに、
通勤至便な住宅用の土地は財テクとは無縁の一般市民である私達にも十分利用価値が高く、
高いお金を払う価値が十分あるものであると考えて、都心に住むことにした。

戸建てか?マンションか?

ご存知かもしれないが都心では、ちょっと良いマンションは戸建てと大して値段は変わらない。
長期コストを考えると、同じような条件ではマンションの方が倍近いコストとなる事もある。
で、戸建てかマンションかという問題があって、
マンションの鍵ひとつで出られる。
気密性が高く冬暖かく夏涼しい。
雨戸が無いので開け閉ての面倒が無い。
庭が無いので手入れの面倒が無いのは、私達のライフスタイルから考えて、
従来の戸建て住宅と比較してメリットであると感じた。
そこで、時間をかけてじっくりと、
マンションと戸建ての私たちから見たメリットデメリットを列挙してみた。

マンションのメリットとデメリット

-マンションのメリット-
 · 駅近 · 鍵ひとつで出られる防犯性 · 最先端の設備が充実
 · 高断熱 · 高気密で冬暖かく夏涼しい · 建売住宅よりデザインが良い!?
 · 近所づきあいの面倒がない。子供が門を出ずに友達の家に行ける
-マンションのデメリット-
 · 権利関係が複雑 · 駐車場代や管理費が高い · 駐車場から住居までの距離がある
 · 駐車場付近に物置がなく屋外で使うものの収納が不便
 · 新築で買った場合、中古の値下がりが早い
 · 近隣の騒音など · ペットなどの制約が多い
 · 収納スペースが少ない
すると、マンションで得られるデメリットは、
制度上のものであったり、デベロッパーが工夫をする事ができても
買い手としての個人では為すすべが無いものだという事に気づいた。
逆に、マンションのメリットとされている事は
戸建てであっても、立地条件、設備の充実、間取りなど設計上の工夫によるもので、
資金とアイディアとでマンションのメリットを持った戸建ては実現できる
という事が分かった。
戸建てにするというのは、それで決まった。

住まいに求めることを整理

わたしたちが住まいに求めるものを言葉で列挙したり、それを実現するためにどんな手段があるのか?
住宅雑誌や本を読んで学び、自分たちに合っているのはどういう解法か?
じっくり、何度も、沢山の仮定を立ててみた。

生活パターン

私たちの一日は朝 · 職場や学校など · 夕 · 就寝という4つのパートに分かれていて
家族時間は朝と夕という一日2回の区切られた時間として存在する。
かつ、その4つのパートがメンバーの組合せを変えながら2回ずつ存在する。
たとえばこういう事だ。
妻が起床して、用事を済ませ、片付けて、家をでる。
夫と子供が起床して、用事を済ませ、片付けて、家を出る。
妻と子供が帰宅して、用事を済ませ、片付けて、寝る。
夫が帰宅して、用事を済ませ、片付けて、寝る。
夫婦の出勤時間をずらす事によって、夫婦が働く時間を確保しながら
子供が家にいる時間を増やしているというわけだ。
こういう生活パターンなので、玄関やリビングにいる人の気配が寝室に伝わる事は睡眠を妨げる事になる。
夫婦がそれぞれ、1日に2回片付けをし、自分の片付けた結果を
自分のいない状態でパートナーが使うのだから、
ある程度片付いているのが望ましい。
すごく片付けやすいのが望ましい。
もし仮に片付けができなくても、ある程度の安らぎと秩序がもたらされるようであって欲しい。
多分、残業して遅くに帰宅した夫が
子供のおもちゃ、脱いだもの、紙おむつ · お尻拭き · 
汚れた食器 · 学校などからのプリント · 明日の朝食の下準備
これらが一度に視界に入ったらどっと疲れるに違いない。
多分、妻が子供とやっとの思いで帰宅して、
同じような光景を目にしたら、やっぱりどっと疲れるに違いない。
同じ光景でも、
キッチンに汚れた食器と明日の朝食の下準備と
ダイニングのPCコーナに学校のプリント
リビングに子供のおもちゃ
トイレにお尻ふきと紙おむつ
脱衣所に脱いだもの
なら、少しは救われるだろう。
だから、私たちの場合
それぞれの空間にリビング · ダイニング · 寝室などの明確な役割が求められる。

キッチン

家にいる時間が少なく、電化による家事の省力化は現行で充分されているので
家を建てるにあたっては、間取りや住まいのつくりによる省力化を行いたい。
一般的にいって人気のある家事はといえば料理だろう。
私たちも料理が好きだ。好きといえるほど時間や手間をかけてはいられないが
調味料や豆腐やかまぼこ · ハム · チーズ · 麺類を除き、
加工食品を利用することは無い。
すごい手間をかけなくても、安全で子供が食べやすく、大人も満足できる
料理はできると信じている。
小さな子供のいる家にとって、キッチンは危険な場所だ。
熱い油が飛んでくる事もあるし、包丁が床に落ちる事だって無いとは言えない。
野菜を刻んでいる時、子供がキッチンに入ってきて、ちょろちょろし始めると
自分の手を切りそうで怖い。
揚げ物や炒め物もよくするので、他の部屋に汚れや匂いを付けたくない。
夫のための取り置きご飯を食べたい誘惑から子供を守りたい。
作り置きを冷ましたりや次の食事の準備を一緒にした時、
食後でもキッチンには鍋や食品が出ている。
他の部屋で別の事をしている時、忘れていたい。
だからキッチンは絶対にクローズドだ。

洗濯動線

小学生の時友達の家に泊まりに行った。脱衣所にベビーダンスが置いてあった。
下着とパジャマが入っていた。便利だった。
大人になったら私もそうしたいなと思った。
小さい子供のいる家の洗濯物の量は大人だけの世帯から 想像もできないだろう。
大人だけで、二人ともウィークデーはスーツを 着る場合、
毎日出る洗濯物は下着と靴下だけ。
人によると思うけどパジャマや各種リネンは週に1回というところだろう。
ウィークデーの洗濯は夫婦2人分でも週に1回か2回でいいはずだ。
乳幼児は保育園に通わせると園の方針にもよるが、多いところでは1日に4回着替えるところもある。
朝着ていく1セットの他に家で寝るパジャマ
保育園で着替え2着にお昼寝パジャマ1着
トイレトレーニング中や汗をかく季節はもっと着替えが必要だ。
午前 · お昼 · 午後 · 夕方とおやつと食事で4回分の口拭きタオルと手拭タオルと食事用エプロンを用意する場合もある。
週に1回はお昼ね布団のカバーやタオル地のシーツの洗濯も必要。
水遊びする季節は水着やらとタオルも毎日持たせる。
乳幼児の子供が2人いれば2セットだ。
そして、ある程度、
キッチンはクローズドにして、食器収納と調理中の作業スペース拡大の為にバックカウンターを設る。
こども部屋は2つ欲しいけど、広さは3畳ぐらいで良い。
玄関に浅い扉付きの収納スペースがたっぷり欲しい。
脱衣所に扉付きの棚を設けて、パジャマやリネンやハウスウェアを収納したい。
これこれの広さのウォークインクロゼットが1Fに必要。
etc
という風に具体的に言えるところまで整理した。

試算

間取りの元のパーツと広さがある程度決見えてきたので、
誤差はあるものの 廊下や階段などの面積を考えると、どれくらいの床面積が必要かが分かる。
その床面積を満足するための土地は各容積率で、
土地だと、 どれくらいの坪数となるかを算出した。
それから、自分たちの資産を棚卸して頭金を割り出し、
毎月どれくらいのお金を何年ぐらい支払うことが適当かを考えて、
実際に、毎月、住宅ローンを払ったつもりで、積み立てし、
様子を見ながら 少しずつ、積み立て額を増やして行った。
実際に、1年継続して積み立てができたぐらいの額より 光熱費が増える事などを考えて少し、
少なめの額がわたしたちが月々ローンを支払うのに適当な額という事になった。
それから、何年間住宅ローンを支払うのか?
という事を家族の年齢やライフイベン、老後の資金計画から算出した。
ローン支払い中のの平均金利を予測して計算すると、
全体の予算が決まった。
床面積と資金がFIXしたので、
容積率がどれくらいの場所だと、床面積あたりの建築費を3段階ぐらい想定すると、
それぞれ、どれくらいの広さでいくらの土地が買うのが妥当かというのが分かる。
そして、土地探し。
サラリーマンですもの、転勤する可能性の高さとロケーションをポイントしていくと候補地が大体決まってくる。
電車での移動時間で職場に近くて、住環境が良くて、
公立の小中学校が安心して通わせられるところで、電車でのアクセスが良くて、
車でのアクセスが良くて、周囲の道が渋滞しなくて、
車で日用品の買い物ができるところが近くにあって、
いざ売りたいと思ったときに買い手がつく場所で、
夫婦それぞれの実家に近すぎず、遠すぎず。
電車でも車でも程よいアクセス。
当時、千葉県の幕張に職場の拠点があり、夫婦の実家が城南よりだった事もあって、なかなか難しかった。 考えに考え抜いて、地域を決めるのに3年がかかった。
色々欲張り過ぎて、見れば見るほど、目が肥えてしまって、
少し予算をオーバーしてしまったけれど、納得できる土地が見つかった。
地域のマンションの価格と比較したが、私達が必要とする広さの賃貸マンションを 借りると、
ボーナスを併用しない場合ローンが20年で返済できるという事が分かった。
また分譲マンションだと、同じぐらいの予算であることが分かった。
駐車場代や管理費を別に支払う事を考えると、マンションと比較しても有利である事が確認できた。
後に分かったことだが、私達が土地を取得した、
まさにその時がこの地域の底値だったようだ。
今は底値を割って既に値上がりしている。
資金力のある年配世代のにとって、贈与税と相続税が1つになろうとしている今、
資産を次の世代に渡す好機となった事が一因ではないだろうか?
毎日、不動産屋から売り物件を求める広告が入ってくる。
それから、限られた予算の中で家づくりプロジェクトが成功するための必要条件について考えた。

パートナー選び

各部屋のパーツはある程度決まっていたし、
それらパーツをどこに配置すべきか の優先順位もはっきりしていたので、
できあがりの精度とデザインと労力を問題にしなければ工務店に頼む事もできた。
価格が折り合うなら、いわゆる条件付売り建てだって良かった。
そうしなかったのは、自分たちが膨大な部品 · マテリアルの中から、
普及度、使い勝手、価格を考慮し、
わたしたちにふさわしいものを選び、
工務店と交渉し、
進捗管理を行っていく事は、不可能ではないにしろ、成功する確率がうんと低いと思ったからだ。
初仕事でリーダとして、自分の住まいを担当するのは、
失敗するプロジェクトに立候補して、家族の生活まで巻き込んでしまう事を意味している。
妥当であるパートナーを探し、プロとしての仕事を委任するほうがずっといい。
次に自分達の要求を満足してくれそうな、もっともふさわしいプロのパートナーを選ぶために
わたしたちなりの設計士事務所を選ぶ観点を整理した。
私たちの家がどうあるべきか、ある程度整理してるので、パートナーには、
階段下の収納を設ければ、収納量が増えますよ
オープンキッチンだと家族のコミュニケーションが増えますよ ·  ·  · などといった
安易な解法の提示などは求めていなかった。
私たちがパートナーに求めたのは、
 · 過去の導入実績や経験による手入れのしやすさや価格なども含めた素材やパーツのスキル
 · 目標価格で発注する工務店との交渉力
 · 目標期日に完了し、できあがりの精度を保障するプロジェクト推進 · 進捗管理能力
 · 施主の意を汲みモノ作りに反映するためののコミュニケーション能力
 · 建築設計士としてのスキル
しかしこれは、いってみれば、頼むに値する設計事務所かどうかという程度のもの。
わたしたちにとって、世界にひとつの設計事務所を見出すのには
絶対的にデザインセンスが自分達好みである事が大切なポイントだった。
だって、センスは絶対に言葉やリストでは伝わらないから ·  ·  · 。
イメージで伝えようとして、“似て非なるものになるほど、つまらないもの”は無いから。
実際にいくつかの設計事務所を訪問し、山嵜事務所を訪ねたのが4軒目。
見せていただいた今までの仕事を見ると、
どれもお世辞抜きに これみよがしで無く、
自然で、文句無く美しく、私たち好みだったこと。
快適そうだった事。
依頼事項をお話するのに、自分達が話しにくいところが少しでもあったら
お断りしようと思っていたが、そんなところは微塵もなく ·  ·  · 。
打合せの2回目には、
要求条件書ならぬ、こうしてほしいというリストをお渡しし
その後も打合せをひとつひとつ積み重ねていって、形になった。
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