U2-HOUSE

おそらくこの文章をお読みになる方は建築家山嵜さんまたは山嵜さんの設計された建築物に何らかの興味があるのではないだろうか。
仲間うちはさておき、これからこの人に建築をお願いしようかと考えている方がまず第一の読者なのではないだろうか。
もちろん予想だにしない方と言うのもいらっしゃるだろうが、ここは一つ、そういう方々に向けて僕らの家についての事をお 話できればご参考になるのではないかと思い、書き進めることにします。
途中書くのがいやになるのが予想されますので、話が脱線することを始めにお断りいたします。
あしからず ·  ·  · 。〈U2-HOUSEの住人より〉

01 家をたてました 「序章」

2002.11.01
暑い暑いと言っていた日々が過ぎ、ちょっと寂しく思い始めた頃にやっと家が出来た。思い立ってから2年が経った。長いようで短く、短いようで長く、3回目の蝉時雨を通り越して来た。一般的にはごく普通の期間であろうが、マンションや建て売り住宅を購入すればそのまま住めるわけだし、ハウスメーカーに頼めばもう少し建築期間の短縮は可能であっただろう。僕らにとってはけして短い期間とはいえない。建築家の山嵜さんに初めてお会いした時にはまだ言葉があまり喋れなかった息子も今では流暢に会話をするようになっている。「お父さん何してるの?」「早く原稿か書きなさ〜い。」なんて. ·  ·  · 。
特に「やった〜」なんて言う感慨はない。元々マイホームが欲しかった訳ではなく、むしろ家やローンに縛られる悪いイメージのほうが強かった。ずっと賃貸マンション暮しでかまわないと思っていた。前の家は室内は小さいけれど環境は申し分なかった。バルコニーは意外に広く、春には鶯が囀り、桜並木を通って駅前まで出られ、駅からも5、6分の位置にあった。近くには川が流れ、白鷺、鯉、亀、よーく探せばメダカなんかも見つけられるし、その割に、都心へのアクセスもよく、町もちゃらちゃらしているでも寂しいでもなく、良品を揃えるスーパーが夜遅くまで開いていた。なによりも、僕らでも家賃が払える程度だったし、その土地そのものを愛していた、にも関わらず ·  ·  · 。そんな僕らが新しい家にいる。住むと言うより、いると言う感じだ。まだ住みこなしていない。引っ越しの引き続きであふれる物たちを納めるために戦っている。いや、気だけ戦っている。あまり能率よく動けていない状態なのだ。今度の休みには屋外用の収納庫を作ろうと思っていても、いざその日になると息子と砧公園に行ったり、無駄足になってしまうような買い物に行ってしまうのだ。話はそれるが家具や家電で気に入る物は本当に少ない。仮にデザインが良くても、サイズや色、値段、用途等でボツになるのがほとんどだ。そんな訳で器用でもないのに作ることになってしまい、これまた時間と体力を消耗することになる。
何で家を建てたのかと聞かれることは度々ある。自分なりには分かっているが、他者に伝える語彙をあまり持ち合わせていないので、一様、「子供が大きくなって、手狭になってきた。」や「僕自身が生理的に家を建てたくなった。」と言うのを対外的に用意してきた。この二つは嘘ではないがそんなに単純に集約してしまうとやはり嘘っぽい感じがする。家を建てるより賃貸マンションの家賃を払う方が気楽なようで、実は精神的にも物理的にも自由でないように感じていた。たとえば、仮に僕らがフランスに2、3年行こうという気になったとしても、今ある持ち物やその間の家賃の事等考えるだけで足が重くなってしまうだろうから。それに住んでいたマンションは物が溢れて来ていて、収納のことを考えると新しい買い物もできないような、そんなどこか寂しい状況になっていたし、子供の養育費を考えると家賃より月々の支払いを抑えたローンを組む方が賢明だとか、数限り無く理由があった。もっと突き詰めると家とは何かとか、人間の根源までさかのぼってしまうことにもなりかねない。そんなの当たり前と言われればそれまでだが、僕らは沢山後ろ髪を引かれつつ、決断をし、動きだすことになった。とは言っても、移り住んでいる今でこそ当たり前に新しい家を受け入れているが、この2年間は動き出してはいるものの、今の場所の方がいいんだけどと言う気持ちが絶えずあった。
出来た家 ( いわゆる狭小住宅だ ) については満足している。偉そうに言わせてもらえば75点ぐらいだ。心配していた息子の反応も及第点をもらっている。引っ越し前にはいやだと訴えていたものの、おもちゃが移動してしまった今では新しい家が自分の家になってしまったようだ。残りの25点は僕らの資金不足に起因するものがほとんどだが正直に言って建築家にやられてしまったなあと思うところもある。自分ではなく他者の思考と言うことだ。
僕らは建築家に設計を願いして作ってもらうことを選択したが、当たり前だがそれも人各々だと思う。どれがいいというものではない。セルフビルドやハーフビルドもありだし、ハウスメーカーやダイレクトに工務店にお願いするのもありだ。いくつかの選択肢から建築家と共にやる方法を選んだのには僕らなりの理由がある。そのひとつに自分達らしい家が欲しかったと言うのがある。自分達らしい家なのだからセルフビルドが一番ストレートだが場所や時間、僕らの力量を天秤にかけるとそうもいかない。だいたいセルフビルドの家の多くもプラモデルの様なキッドが多い様に見受けられるし、ログなどは都内では防火の問題もあるのでなかなか難しい。ハウスメーカーはいろいろあるが ( 何度か展示場も訪れたが ) 建てると言うより買わされるという感じを抱いてしまった。また家自体や表装の新建材 ( 石やレンガのフェイク物、プラスチックみたいなタイル等 ) は嫌いだった。耐久性はいいんだろうけれど、年月と伴に朽ちて味が出るなどとは到底想像できなかった。誤解を招くといけないので言っとくがいいものを拵えている会社もあった。ただ僕らの様に日本社会の王道から好みがそれてしまうものには無理だった様に思う。工務店ダイレクトはいくらこちらが好みを志向しても工務店によって得意なものとそうでないものがあるので、小心者には業を通す気合いもそれを裏付ける能力もないし、工務店自体の情報もあまり持ち合わせていなかった。
建てる以前に買う、つまりマンションや建て売り、タウンハウス等も考えてはみた。住んでいたのが賃貸マンションだったので、悪いところはそれなりに分かっていたし、自分達流にカスタマイズできる物を探すのは難しいと思えた。ただ建てることの煩わしさ等がなく、希望する地域に見つけやすい等マンションが持つ多くのメリットを顧みると、20年後に逆戻りしている可能性もないとは言えないけれど ·  ·  · 。建て売り住宅やタウンハウスは有力なライバルだった。建て売り会社は土地を探すのが僕らよりずっとうまい ( 資金力、情報入手のスピード等、かなう訳もない。ずる〜い! ) 。物はちょっと安普請で、自分達流とはちょっと違うが、がんばれば買える値段で前住んでいた地域でも、見つけられた。長期的には土地を優先した方がクレバーだったのかもしれないが建てる事に何だかこだわってしまった。作る事の楽しみ ( 辛さ ) を優先させたのだ。
最近、建築がブームらしい。雑誌も特集をすると売れるそうだ。安藤忠雄なんか出れば間違いなく売れるだろうし、若手の建築家の設計した家でもOKのようだ。しかしブームと言っても所詮はまだ少数であろうが、5年後ぐらいには今までとはちょっと違った家が増えてくるんだろうなという気がする。そして10年後にはブームもピークになり、そして当たり前になって行く。ブームに乗るというのはあまりカッコいいものではない。しかしそうしてしまったという機運はおそらく僕らの世代の多くが抱えているものだと思う。完全に作られるブームもあるが、内部から発生するブームもある。千葉 学さんが現在の小住宅ブームについて雑誌に書いていたのを読んだけれど、都心の地価が下がり買える価格になったこと、そして既製の住宅では多様化したニーズに応えられなくなった事等をその理由にあげていたと思う。そういう機運なのだと思う。20年前の衣のブーム、10年前の食のブーム、そして住のブーム、人間の欲望は複雑のようで案外単純なのだろう。住の次のブームを予想できますか。単純に考えると心でしょうかね。それとも ·  ·  · ?
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