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06 家をたてました

2003.05.06
テレビを見る習慣がないが偶然、毎年のようにうまくローザンヌのバレーコンクールの放送を見ることができる。見ているだけで、精神は昂り、思わずにっこりしてしまう。そんな訳で今晩は原稿を書いてみようと思ったのです。
山嵜さんの設計した住宅の魅力は単純明晰な回答ではないかと僕は考えている。すなおに、余り手管を使わない明瞭さ、造れるようでなかなか難しいのではないだろうか。基本設計はある意味、設計家との闘いでもある。ファインばかりが人生でもない。リアルはときに厳しくもある。インチキなしの建築はかくもなかなかしんどいものです。おべんちゃらを書いてもしょうがないのでリアルな依頼主の言葉を書こうと思う。

基本設計1

いわゆる基本設計を始めたのは、もう2年前の事になるのか。早いものだ。
事務所に行ったり、ファックスで連絡したりしていたが、住んでいたマンションに1度来ていただいて、食事をしながら、だいたいの生活スタイルや嗜好、家に対する要求とかを聞いていただき、まあよくある初めの一歩を踏み出した ( 設計の契約をする前から、土地の購入の時にも電話などでアドバイスをもらっていたので、既にお世話にはなっていたのだが、やっと設計のスタートにきたなあというところか ) 。地下をつくりたい事を伝えたり ( これは家を建てるにあたりとても重要なことだったのです ) 、持ち物を大体書き出したりもしたっけか。
2、3週間で最初のプランが出来てきた。僕自身は家を設計する事自体を楽しみにしていたので ( 道楽ですね ) 余りに早い第一プランの提案に正直面喰らった。建築家の中には1年位考えるなんて言う方もいると思っていたのだ。もっとも1年間、設計の形にならないのでは僕らとしても経済的に困るのだが、2、3週で本当に考えてるのか?、え〜と言う感じがした。
プランは叩き台ということだったが東側の前面道路から引っ込んだ奥の位置にほぼ正方形の建物で、1階手前に間口の広い駐車スペースとその北側にエントランス。その上がデッキスペースというものであった。嫌な言い方だが、奥に長めの敷地の場合によくある建て売り住宅のような回答であった。建ぺい率、容積率等の問題もあり、地下は必要 ( うっしっし ) で、地下1階、地上2階建のものであった。
今となってみれば設計は建ぺい率を誤って解釈していたので ( 建ぺい率50%の所を角地適応で60%にできると解釈していた。 ) プラン自体が意味の無い物であったのだが、その60%の今より大きいはずのプランを見て正直言って悲しくなった。あまりに狭く平凡だと思ったから。
自分なりに美しい家の形や間取り図などかなり考え、絵や図を書いて楽しんでいたのに、超現実の平面図は辛かった。僕個人が他人から与えられたものはなかなか受け入れられない性格なので消化するのに1週間位かかった。プランの権利は山嵜さんの方にあるのでこの文章の下にその平面図が出ているかは分からないが、できれば一目瞭然なので見てもらえるといいんだが。 ( 01.05.06 案 ) 
地下1階 1階 2階
地下1階 1階 2階
東道路から3.6m入って玄関 ( 引っ込んでるから暗い感じかな ) を入ると前に階段、左に廊下、南側左手手前から風呂場、洗面所、奥に3畳位のスペース。南側の壁面は斜めに外側に倒れる感じになっているので容積率を上げないでいくらかでも広がりを持たせた工夫がある。またそこが地下への採光口になる。西側から手前東側に階段を降りると地下.真ん中に稼働可能な収納庫で親の寝室と子供部屋を間切ることができる。1階玄関から西側奥に昇っていくと2階。南面西側に東を向いたコノ字型の対面キッチン、東側は大きな採光でその外にデッキスペースというものだった。
僕らでも分かりやすい様に模型まで造っていただいたが、北側斜線に二階がかかるので北側約1/3を2.4mの残り南側を2.7mの2段敷きの陸屋根のものであった。
正直に言って僕にとってはすごく不満なプランでストレスがたまったが奥さんはそれも受け入れていた。一週間ストレスの中で考えた。僕らの要求がほぼ入っていると。確実に。しかしこれではどうしてもがまんが出来なかった。
第1案の感想は次のようなものだったと思う。
  1. 玄関が引っ込んでいて暗い感じがする。
  2. サービスバルコニー ( 物干 ) がこの形ではとれないのでは
     ( 家の中から見えない方がいい ) 
  3. 1階の部屋が3畳では納戸になってしまう。
  4. 天井高の取り方がしっくり来ない。寝室は低く、リビングは高く、ダイニングは低い方がいい。
  5. 廊下室のようになってしまって無駄な感じがする。
  6. 地下にはドライエリアを取った方が採光、調湿のためにはいいのでは?
  7. 外道路に面する東向きのバルコニーより東南のがいいのでは?
  8. キッチンからバルコニーはできるだけ直結にしたい。
  9. 螺旋階段で廊下室を消す方法。
  10. 屋上を取りたい。
こんなことを言ったと思う。
容積的には同等でも正方形では見た目の長さがあまりに短く ( もともと小さい敷地なもので ) 、視線の長さが欲しいし、狭い敷地の工夫が余りされていない。杉浦伝宗さんではないがスモールテクノロジーが幾らかでも欲しい。廊下などはできるだけ無くしたいように思えた。自分で書いた改良間取図と不満を次にお会いした時に伝えた。改良間取図は長方形の敷地に対して正方形の図では無く、そのまま奥行きを残した変形奥長のもので、東側手前の駐車スペースがある関係で後ろ側はやや広めにしてある物であった。
また、その頃雑誌で見た二つの住宅について僕の感想を添えてファックスしたっけか。1つはjt0002、佐藤光彦氏設計の仙川の住宅、もうひとつはjt0203、特集<タテに住む方法>にでていた小川広次氏設計の調布市の田中邸だ。これの意図は地上2階、地下1階であるが予算はそれほど高くはなく、地下にフリースペースの様なできるだけ深い ( 天井高 ) 空間が魅力的で衣食住の住だけに止まらない、遊び心を取り入れたもの。田中邸については3層の各階にロフトの様なものがあり、つまり狭小を生き抜く知恵があるということを伝えたかったのだが、仙川は山嵜さんも前に見に行ったことを話してくれたが調布のは1度も話にはでなかった。好みではないということだったのかな。
それに対する回答は1か月後の ( 01.06.07 A案 ) 。
地下1階 1階 2階
地下1階 1階 2階
1階は洗面、トイレ、風呂場をコンパクトにまとめて奥の部屋を4畳くらいに広げ、階段をいくらか奥に詰め、地下は収納を東側壁面全部に、2階キッチンは北東側天井が2.4mの位置に南を向く様になった。こうすることでバルコニーとキッチンがつながり、物干も確保され、1階もやや広くなった。
それでももちろん不満ではあったが冷静に考えれば、派手さはないが堅実かもしれない。少なくとも前のよりはいいと思った。今さら設計家は変えられないし、半ばあきらめて我慢を自分に強要して事務所に伺ったがしかしこれだけのことで1ヶ月を費やす設計家ではなかったのだ。 ( えらい! ) 
B案誕生 ( 01.06.07 B案 ) 
もうひとつ案があると言う。敷地に対して奥に長く、北西に詰めた取り方で約1対2の直方体の建物であった。東側手前左 ( 南 ) に最小限の幅の駐車スペース、その奥にポーチ、その奥に自転車スペースで、玄関口を南側から入る方法で、1階玄関前に螺旋階段、左手 ( 西側 ) 南にトイレ、奥に風呂洗面、右側 ( 東側 ) に主寝室5畳半、その北側は吹き抜け、地下は中央北側に螺旋階段があるのみのフリースペース、2階は西側にキッチン、南側は1階駐車スペース等の上にデッキスペースと言う物でやはり北側が吹き抜けとなっていた。
地下1階 1階 2階
地下1階 1階 2階
なかなかいい。あまりに単純明瞭な平面図だが面白い。なんかうきうきする感じだと思う半分、しばらくたって、様々な不安が頭に浮かび出した。あまりに単純な理系的な物の中で生身の生活は問題ないだろうか。入り口を南私道 ( 4軒共有分 ) から取って問題はおきないだろうか。車は入るのか。吹き抜けが2層もあり上から落ちたら死ぬなあとか、2階は南北両方が全面ガラスでは凄まじく夏暑いのでは無いだろうか。螺旋階段はたまに来る足の悪い母にはやはり無理では無いだろうか(言い出しっぺは自分だったんだけど ) 等。設計は実生活を考慮するとむずかしくなるなあ。
最近の若い建築家の家はあまり生活まで考慮しない ( いうなれば勝ち組的な ) ものが多いと思う。個々の生活なんて分かる訳無いじゃんなのだろうけれど、それでも生活なくして家はない。ミースの家は美しいが住む人間は不幸にならざるをえない。中村好文さんじゃないが住宅の大事なところは存分戦わないとプラモデルになってしまうのではと思うのだが。しかし建築の美しさ、ダイナミズムと生活の共存は可能だと僕は思う。
土地探しの頃は25坪あれば楽勝だよなと考えていた。20坪以下はそれまた面白いなんておばかにも考えていた。 ( 実際20坪以下になってしまったが。 ) 昔の増沢洵氏の「最小限住宅」、安藤忠雄氏の「住吉の長屋」、妹島和世女氏の「小さな家」や青木淳氏の「i 邸」なんてやっぱりどこか引っ掛かるし、面白い。20坪以下はサバイバルと岸和郎さんが書いていたが実際やってみましたがなかなかしんどいものですね。がしかし巷をさわがす9坪ハウスよりうちのがいいよ。当然でしょう 。
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