U2-HOUSE

12 家をたてました 「食事」

2004.01.05
屋外で食事をするのが好きだ。鷹の巣村のサンポール · ド · ヴァンス。コロンブドールの夏の食事。めかし込んだ老若男女がまだ明るい屋外にセッティングされた席に着いていく。アペリティフはシャンパン、いやゼレス ( シェリー ) か、うーんヴァン · ジョンヌから始めることにしよう。料理はダイナミックな白トリュフのあまりにも沢山ほどこされたサラダメスキュランから…。座を立つのは後にしよう。マチス、ピカソ、モジリアニ、まだまだあるぞレジェにミロにボナールか。プールのそばのブラックまで。何と言うオーベルジュ。
うまい料理店なら各々いくらでも出てくることでしょう。兼定の握りにランブロワジーのおフレンチ。はるばるていのラーメンに、シェソワのアップルパイ、蕎麦だったら、まあどこでもいいや。それでもすばらしい食事となるとなかなかむずかしくなってくる。
けして最高の料理というわけではないですが、すばらしい食事、ゆたかな時間、ゆたかな空間を感じさせてくれます。
豊かな食事とはまさにこんな感じがする。 家を考えるとき、僕らは食事というものを重要と考えていました。愛する人たちと共に食事する喜びはとてもすばらしいことだと思います。まさに人生の喜びの、ど真ん中と言ってもいいのではないでしょうか。家族の結びつきを食事なんかに頼っちゃいない、なんて言う方もあるかもしれません。たとえば仕事が忙しくて旦那さんがいなかったり、外でひとりで気楽に一杯やっているほうが好きだったり、子供の塾があったり、食べることに興味がなかったり、健康のための食事制限をしていたり、まあ人それぞれ事情ってものがあります。もっと過激に、家族の結びつきなんて所詮幻想よと言う方もいるかもしれません。人それぞれです。それでも僕らは、食事を共にする喜びはとても大切なことだと思います。いずれは子供が大きくなって外で仲間と食事に行くこともあるでしょう。 ( 彼らにとっても新しい登場人物と食事を共にする喜びがあるわけですから ) 親から離れるまでのわずかな間、また夫婦2人だけの空間でもいいのですが、そんな小さくて深い、人と人の結びつきはいいものだなあと思います。もちろん食事を家族の結束のためのロジカルなものの様に考えて、ご飯を食べているわけではありませんが、豊かに食事が楽しめたら ( もちろん贅沢や過食という意味ではありません。 ) 人生捨てたものじゃないと思います。それからちょっとバッドですがよく友達とわいわいやりたいからリッチなリビング、ダイニングという、もてなし系になる家もあります。しかしよく考えてみると友達にもそれぞれの生活があるわけです。たまに来てた友達もだんだん自分の生活に戻っていくでしょう。またその友達ももてなし系の家を建てるかもわかりません。つまり僕個人として言いたいのは、あまり他者を意識しすぎると寂しいものになってしまうのではないか、ということです。人望があり、いつも来客が絶えないだろうなあという人はぜんぜんいいのですけど、個人主義じゃないですが、友達、友達を連発するのは僕には幼稚に思えます。
それではここですばらしい我が家の食事について書きましょう。あ、そーだ、よだれででちゃいますよね。残念、残念、文章では食べられないから、やめときますね。本当に残念だ。

豊かな食事をするための2階  キッチン

キッチンの設計でも二転三転ありました。ルームの広さの割に大きくスペースをとっています。1階の洗面、トイレ、風呂と同じ広さのスペースです。階段の形状を変えて ( コの字型 ) キッチンとダイニングを近づけたいなんて言いだしたこともありましたがほぼ最初の提案通りの位置で落ち着いています。キッチンの形状がコの字からニの字の対面式になったぐらいです。計画以前にはヘの字型の対面キッチンがいいなあなんて思っていましたがスペースあっての計画ですから当然消えました。以前の家でも話をしながら料理をしていましたのでフルオープンは問題なく採用です。閉じているキッチンだと一度に料理を出すのなら料理人も食事に参加できますが時間と共に料理を出す場合、なかなかやっかいになります。基本的に閉じたキッチンは料理人と食事をする人は別の人を想定している感じがします。臭いや料理の過程を見せたくない、またキッチンのかたずけなどを理由に閉じる方もいるようですが僕らにはあまり問題ないように思えます。
ガスレンジやオーブンは西側壁面に、流しは対面で東向きです。始めはほぼ造作で計画されていました。ゴージャスなシステムキッチンは値段的に無理ですし、そんなに好みではないし、そうかと言ってシンプルな台に無印のガスレンジではちょっとなあという感じでした。堤さんからは一般的なガスレンジでコストバランスを考慮したもの、ビルトインタイプのハーマンのものを提案されていました。キッチンは料理人のテリトリーですから僕はなるべく控えて、奥様に決定権は一任です。自分の理想のカッチョイイ物なんてあまり意味がありません。だってほとんどの食事は奥さんが作っているのですから。
洗面やバスの部材もそうだったのですが、提案があったものよりも自分たちに合ったものが、提示されたものの価格内でないかどうかを一応探してみました。業務用キッチンのタニコー、マルゼンや東京ガス、ナショナル、リンナイ、トーヨー、フランスのロジェールなどなどパンフレットを取り寄せたり、リビングデザインセンターに行ったり買い物みたいな感覚で品定めをしていました。火力が強い業務用は色もシルバーで機能美的デザインもよく、長持ちしそうな感じもするのでかなり魅力もありましたが、それでも着火方法、オーブンや魚焼きグリルの有無などでなかなか結論を出せないでいました。いろいろ迷って、一応良しとしたのがロジェールのシンプルなガスレンジにできれば別のオーブンを入れるというものでした。 ( ロジェールのオーブン一体型ではちょっとかわいすぎで、我が家にとっては全体のバランスを損なう感じを受けましたのでボツです。 ) 魚焼き機はないのがやっぱりウーという感じです。業務用は魅力もあったのですがいろいろ考えてバランス的に重過ぎるのではないかと言うことになりました。 ( 余談ですが玉村豊男さんの家のキッチンメーカーはいいですよ。フランスのラコルニュ。ちなみにパトリスジュリアンのレストランはタニコーでした。 ) 家庭料理はレストランの料理とは違うほうがいいという結論です。 ( あくまで我が家のお話しです。 ) 
こんな結論で一応お答えしといたのですが今度は事務所の方で決断が一時停止。ガス管のサイズが合わないとか、恐ろしく値段がかかるとか言っていました。そんなこんなでキッチンはしばらくそのままで違うことに移ってしまっていました。
それがある日ふと出てきたお話、山嵜さんの知り合いのキッチンメーカーさんがモデルチェンジに伴いショールームのキッチンを処分すると言うお話。事務所に伺った後その足で山嵜さんと代官山へ、知り合いの方は不在でしたがずかずかと入っていって、ショールームの一角にあるシステムキッチンを見せてもらいました。リッチです。イターリアンモダ ̄ンな感じ。焦げ茶色でデザインもこてこてしていませんでしたのでシステムキッチンとしては、かなりお買い得です。しいていえばレディメイドという概念と、最初の計画がステンレスの金属色と白色でしたのでイメージギャップがあるなあとは思いました。山嵜さんもその色ならまあいいかと思っていたらしく僕らに薦めたようです。客観的にいってモノは造作よりいいと思いました。クールな判断です。 ( モーリコーポレーション様ありがとうございました。 ) 
そんな訳でシステムキッチンに決まったのですが天板はステンレスという希望は通り、アレンジしていただいた部分もあります。対面側には白いCDラックを含むちょっとした棚と下から風が出るエアコンを収めてあります。ここら辺は全てまかせっきりです。
余談ですが炭焼きレンジという物をご存知でしょうか?長方形七輪の箱がキッチンに組み込まれているようなもので、中に炭を置き、上に網などを載せ、下に燃えかすの灰をためる所が取り出せる、ごくシンプルなものなのですが、実はちょっと欲しくてひっかかっていた。もちろん毎日使わないものだとは分かっていましたが、炭火で焼いたさんまにステーキに焼き鳥に焼肉、なんだかおいしそうでしょ。男性を料理に引き込むにはいい材料になるのではないだろうか。業務用の厨房をお考えなら、鉄板備え付けよりこいつのほうがいいんとちやうやろうか。残念ながら我が家には入りませんでしたけれど。
2階はキッチンが当然なくてはならないものだったのですけれど、もうひとつ重要だと考えていたのがダイニングテーブルであります。正に家の中心と考えていました。重量感があるしっかりしたできるだけ大きいもので、ここで子供が勉強をしたり、絵を描いたりできればいいと考えていました。リビング中心というよりダイニング中心、ソファーよりダイニングチェアーと思っていました。具体的にテーブルは190cmぐらいあり、6人がけ ( 縦を使って八人も使用可能 ) 、木の質感があるもので、あまりモダンにならないものがいいと考えていました。
しかし、いろいろなバランスから違うものにならざる負えなくなりました。どうしてもこのテーブルにしたいというものがあれば、それを中心に考えることもできますが、そういうものは見つけられず、またキッチンが落ち着いたブラウンのタイプのイタリアモダン風ですし、床材が軽い桐、色も薄くしか塗装していないものです。重厚なものは難しくなってしまいました。ベッド選びもあるので家具屋回りもいくらかしましたが ( お店によってはまるでキャッチセールスよろしく、案内人がずっと付いてくるところなどもあり、あれでは気のいい人だと高いものを沢山買わされてしまいそうな感じします。 ) 決定できぬままでいました。まさにこれといったものがないのです。ベッドもしかりです。我が家はほぼ作り付け収納というものがないので ( 奥さんはずーと図面上になく心配だったようです。 ) 可動収納庫を作っていただくことにゆるくなっていましたが、やってもらえなければ、ちょっとしんどいけれど自分で作るから何とかなると考えていました。建築予算は収納込みで考えていましたのでもうすでにオーバーなのですが、家具代ということで、最後に作っていただくものの予算を決め、優先順位を決めました。1番可動収納庫4個、2番ベッド ( クイーンサイズ ) 1個、3番本棚、4番ダイニングテーブルです。予算以内は1、2番まで、いろいろ考えましたがここは作っていただきたいのは山々なのですが、クールに1,2番までにいたしました。3番は引渡し後、簡単な棚をコンクリートブロックと桐板を大工センターで買ってきまして組みました。4番はとりあえず山嵜さんから桐板と足を借りて、いいのが見つかったら返すことになりました。しかし山嵜さん設計の直径110cmの桐の丸テーブルはいつの間にかあり、オープンハウス用に塗装までされ2階に置かれたまま、消え去ることはありませんでした。このスペースには丸だと設計家は訴えているようで、確かに丸のほうが空間的にしっくりくるのですが、良いレストランには丸テーブルがほとんどないように ( 中華は別でしょうが ) 使いやすさは今ひとつという感じがします。それに最初のイメージとかけ離れていたのですから。しかし、長方形の板を出しても丸テーブルは天板を固定されているため2階から出すにはベランダ外からおろさなければならず、ちょっとやる気になりません、それにかわいそう。最終的に決定をくだしたのは子供で、丸のほうがいいと言っていました。まあいいかということになり、2ヵ月後それを買い取ることにしました。
そんなの建築家の思い通りじゃん、と知り合いの人からも言われましたが、他にテーブルを見つけられなかったわけですし、確かにこの空間には馴染んでいるし、理を取らず、実を取ることにしました。最初のコンセプトまで吹き飛んでしまうのだからすごいことです。だからと言って別に後悔してるわけではありません。なるようにしてなったということです。ちなみにベッドは布団などが収納できるものを探していたのでそれにそったものをお願いし、作っていただきました。これがなかなか良くて、一ヶ月後には子供用のちょっと狭いぐらいのをもうひとつお願いしました。テーブルしかりベッドもそうですがおそらく材料費のみみたいな世界でやってもらいました ( ありがとうございます ) 。
二階について書いてきましたが、まだまだいろいろなポイントの話はあります。大開口の大きな網戸、いいや違った大きな窓、ダブルガラス作戦や、北側の横長連続窓の位置や透明か不透明か、吹き抜け位置のグレーチング、天井高の攻防、この夏にやっと作ったベランダのオーストラリアひのきのデッキノ。またの機会にします。家を作るのは苦痛であり、暴力でもありますが、意を決めたら楽しみましょう。人生の中でなかなかできない経験ですし、家を建てる喜びを感じられる人生の幸、たくさんお金もかかるのだから、楽しまないと。もっとも家は人生ではないですけれど。
我が家は2階がダイニングキッチンです。いまさら珍しくはないですが、視界が遠くまで開けているポイントもあり、何はともあれ明るいし、 ( 個人的には明るいだけではいやで暗部も好きなのだけれどうちの場合は地下があるので ) 、夏は日差しをカットし、冬は室内まで日差しが入るぐらいの軒があります。野外空間としてのベランダ、ここでも食事ができます。昔風に言えば軒下か。大きな開口も含めて形はモダンでありますがまさに日本の家の形であります。
豊かな食事をするための空間、あなたはどう考えますか?
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